生成AIを使い始めたとき、多くの方が最初に感じるのが「毎回、自社のことを説明するのが大変」という問題です。

会社のサービス、主なお客様、文章の雰囲気、守ってほしいルール。これらをその都度伝えていると、便利なはずのAIに手間がかかります。また、説明が少し変わるだけで、回答の方向もぶれやすくなります。

そこで役立つのが「コンテキスト設計」です。少し難しく聞こえますが、考え方はシンプルです。AIが仕事を始める前に読む「自社用の引き継ぎ資料」を整えることです。

コンテキスト設計は、AIへの引き継ぎを整えること

生成AIは一般的な知識を持っていますが、あなたの会社で働いた経験はありません。誰がお客様なのか、何を大切にしているのか、どこまで自分で進めてよいのかは、こちらから伝える必要があります。

これは、新しく入った社員へ仕事を教える場面によく似ています。

新人へ会社案内だけを渡して、「うちの会社らしく、いい感じに対応して」と頼んでも困ってしまいます。「主なお客様は誰か」「勝手に値引きを約束しない」「文章はやさしく短くする」「今日はこの問い合わせの返信案を作る」と分けて伝えた方が、仕事は進みやすくなります。

AIへのコンテキストも同じです。長い資料を大量に渡すことではなく、必要な情報を、分かりやすく、矛盾しない形で用意することが大切です。

自社情報は4つの箱に分ける

AIへ渡す情報は、次の4つに分けると整理しやすくなります。

1.事業の事実

主なお客様、提供サービス、対応地域、営業時間、料金、対応できないことなどです。AIが提案や文章を作るときの土台になります。

2.仕事のルール

「資料にないことは事実として書かない」「外部へ送信する前に人が確認する」「不明な点は要確認と表示する」といった、毎回守ってほしい決まりです。

3.会社らしい表現

文章を読む相手、口調、よく使う言葉、避けたい表現、過去の良い例などです。これを用意すると、AIの文章が自社の雰囲気から大きく外れにくくなります。

4.今回だけの依頼

今回の目的、期限、文字数、使う資料、完成形などです。毎回変わる条件なので、共通の資料ではなく、その仕事を頼むときに伝えます。

迷ったときは、「来月、別の仕事でも使う情報か」で考えてみてください。何度も使う情報は引き継ぎ資料へ、今回だけ必要な情報は依頼文へ入れます。

情報は、多ければ多いほどよいわけではない

AIへたくさんの資料を渡せば、回答が必ず良くなるわけではありません。古い料金表、現在と違う営業時間、参考として保存した過去の文章が混ざっていると、AIが誤った情報を選ぶ原因になります。

特に変わりやすい情報には、次の内容を付けておくと安心です。

  • どの資料や確認に基づく情報か
  • 最後に確認した日
  • 誰が更新するか
  • 未確認の場合は「要確認」という表示

「確認済みの事実」と「参考例」も分けます。過去のSNS投稿は文章表現の参考にはなりますが、その中に書かれた価格やサービスが今も正しいとは限りません。

冷蔵庫と同じで、入れるだけでなく定期的な整理も必要です。古い情報、重複したルール、現在の仕事と関係のない資料を減らすことで、AIが判断しやすい状態を保てます。

Claude CodeやCodexでは、専用の指示書を用意できる

パソコン内のファイルを扱えるClaude CodeやCodexでは、プロジェクトごとに「毎回読んでほしい指示」をファイルとして用意できます。

  • Claude Codeでは、主にCLAUDE.mdというファイルを使います。
  • Codexでは、主にAGENTS.mdというファイルを使います。

どちらも、プロジェクトの目的、先に読む資料、守るルール、成果物の保存先などを継続して伝えるためのものです。毎回同じ説明を一から入力する負担を減らせます。

両方を使う場合は、共通ルールを一か所にまとめ、製品ごとに必要な指示だけを分ける方法もあります。ただし、Claude CodeとCodexは同じ仕組みではありません。Claude CodeはCLAUDE.md、CodexはAGENTS.mdを入口として使う、という違いを理解したうえで設計します。

なお、これらはAIに伝える「仕事の注意書き」です。書いた内容が必ず守られることを保証する鍵ではありません。

指示書に秘密情報は入れない

繰り返し読み込む指示書や事業資料には、パスワード、APIキー、顧客の個人情報、非公開の契約内容などを入れません。チームで共有されたり、作業履歴に残ったりする可能性があるためです。

また、「顧客へ勝手に送信しない」と書くだけで、安全対策が完了するわけではありません。

「金庫を開けない」と書いた付箋が指示書なら、「そもそも金庫の鍵を渡さない」のが権限設定です。大切な仕事では、次の対策を組み合わせます。

  • AIが見られるフォルダや情報を必要な範囲に絞る
  • 外部送信や公開の前に、人が承認する
  • 変更された内容を人が確認する
  • 元に戻せるように履歴やバックアップを残す

AIへの指示と、実際の権限管理は分けて考えることが大切です。

まずはA4用紙1枚ほどの情報から始める

最初から立派な社内資料を作る必要はありません。まずは、次の5項目を短くまとめるだけでも十分な一歩になります。

  1. どのようなお客様を支援しているか
  2. どのような商品・サービスを提供しているか
  3. AIに勝手に決めてほしくないこと
  4. 文章の雰囲気と避けたい表現
  5. どの場面で人へ確認するか

たとえば地域の店舗なら、「近隣の家族が主なお客様」「値引きを最初の提案にしない」「根拠のない一番表現を使わない」「公開前に店主が確認する」といった内容です。

実際にAIへ短い仕事を頼み、条件が反映されたかを確認します。うまく伝わらなかった部分だけを直していけば、自社用の引き継ぎ資料が少しずつ育っていきます。

まとめ:AI活用の前に、自社の情報とルールを整える

AIを自社の仕事に合わせるには、高性能なサービスを選ぶだけでは足りません。自社の事実、仕事のルール、文章の雰囲気、今回の依頼を分けて伝えることが重要です。

コンテキスト設計を行うと、毎回の説明を減らせるだけでなく、回答のばらつきを抑え、確認や修正もしやすくなります。そして、一度作って終わりではなく、事業の変化やAIの出力を見ながら更新していくことで、より自社に合った仕事の土台になります。

AI導入とは、単に新しい道具を入れることではありません。自社の情報と判断ルールを整理し、人とAIが一緒に働きやすい環境をつくることでもあります。

参考にした公式情報

※各サービスの画面や仕様は更新される場合があります。本記事は2026年8月29日時点の公式情報を基にしています。