AIに依頼したものの、「期待した内容と違う」「一般論ばかり返ってくる」と感じたことはないでしょうか。

その原因は、AIの性能だけにあるとは限りません。人に仕事を頼むときと同じように、目的や前提、完成の基準が伝わっていなければ、AIも何を優先すべきか判断できないからです。

ただし、長く複雑な指示文を覚える必要はありません。大切なのは、仕事を任せる範囲を決め、判断に必要な情報を渡し、対話しながら仕上げることです。

まず、AIに任せる仕事を小さく切り出す

「来月の集客を考えて」「採用を改善して」のように、業務全体をAIへ丸ごと渡すと、どこから考えるべきかが曖昧になります。

最初に行うのは、AIへの指示を書くことではなく、業務を人が判断する部分と、AIが補助しやすい部分に分けることです。

例えば「来月の集客を考える」という仕事は、次のように分けられます。

仕事の内容主な担当
目標や予算を決める経営者が判断する
過去の施策を整理するAIが補助しやすい
集客案を複数出すAIが補助しやすい
費用や実現性を確認する人が確認する
実行する案を決める経営者が判断する

AIには、下書き、情報整理、言い換え、比較、候補出しなど、結果を人が確認して修正できる仕事から任せるのが向いています。

一方、契約、採用、支払い、公開、削除など、間違えたときの影響が大きい判断や実行は、人が最終確認を行います。

良い依頼は「仕事の依頼票」と考える

AIへの指示は「プロンプト」と呼ばれますが、難しく考える必要はありません。外部の担当者や新しいスタッフへ仕事を頼むときに渡す、仕事の依頼票と考えると分かりやすくなります。

依頼を整理するときは、次の7項目が役立ちます。

項目伝える内容
1. 目的何のために作るか初めて来店する人の不安を減らす
2. 役割どの立場や観点で考えるか小規模店舗の接客担当として
3. 対象者誰が読む、または使うか予約方法を知らない新規のお客様
4. 材料・前提使ってよい事実や背景予約は電話、受付は17時まで
5. 条件長さ、数、雰囲気、優先順位200文字以内、やさしい言葉
6. 禁止事項作ってはいけない情報や避ける表現与えていない料金を追加しない
7. 完成形・合格基準形式と、満たしてほしい条件見出しと本文。予約方法が一読で分かる

すべてを毎回詳しく書く必要はありません。簡単な仕事なら、目的・材料・条件・完成形の4つだけでも、回答はかなり評価しやすくなります。

重要なのは文章の長さではなく、AIが知らない事業上の事情と、何をもって良い結果とするのかを伝えることです。

「専門家として」は、正しさの保証ではない

「あなたは販促担当です」のような役割指定は、見る観点や言葉遣いをそろえるのに役立ちます。

ただし、「あなたは税理士です」「あなたは弁護士です」と伝えても、AIが資格を持った専門家になるわけではありません。役割は、いわば仕事中に着てもらう制服です。事実確認や専門家への相談の代わりにはなりません。

役割を決めることよりも、目的、対象者、使用してよい情報、確認方法を明確にすることを優先します。

曖昧な依頼を、仕事として判断できる形に変える

例えば、次の依頼では必要な情報がほとんどありません。

焼き菓子店のInstagram投稿を書いて。

これだけでは、投稿の目的、読む人、店の特徴、文字数、使用してよい事実が分かりません。AIは不足している部分を推測して埋めるため、期待と違う文章や、実際には存在しない商品・営業時間を入れる可能性があります。

依頼票の考え方を使うと、次のように変えられます。

あなたは小さな焼き菓子店の販促担当です。初めて店を知る近隣のお客様に、気軽に立ち寄ってもらうためのInstagram投稿案を作ってください。
使用してよい事実
・駅から徒歩5分の架空の店舗
・焼き菓子は店内で毎朝製造
・営業日は金曜と土曜
条件
・投稿案を3つ
・各案120文字以内
・やわらかく、売り込みすぎない言葉
・見出しと本文を分ける
禁止事項
・与えていない商品名、価格、営業時間を作らない
・「地域で一番」など根拠のない表現を使わない
合格基準
・初めての人にも、店の雰囲気と営業日が一読で伝わる
・不明な点があれば、作成前に質問する

この形なら、回答を見たときに「何となく良いか」ではなく、目的や条件を満たしているかで判断できます。

情報が足りないときは、先に質問してもらう

こちらが必要な情報をすべて把握しているとは限りません。依頼を書く段階で何が不足しているか分からない場合は、AIに質問してもらう方法があります。

不足している情報があれば、文章を作る前に、重要なものから最大3問まで質問してください。私が答えてから下書きを作ってください。

質問数を決めておくと、聞き取りだけが長く続くのを防げます。

分からない内容については、「不明と明記してください」「仮定を置く場合は、仮定であることを示してください」と伝えることも有効です。

一度で完成させず、3段階で仕上げる

AIへの依頼は、一度の回答で完成させる必要はありません。下書き、修正、確認の3段階に分けると、やり取りが整理しやすくなります。

1. 下書きを作る

まずは全体を作り、方向性を確認します。重要な文章ほど、最初の回答をそのまま完成品として使わないようにします。

2. 変更点・理由・残す条件を伝える

「もっと良くして」だけでは、AIが何を変えるべきか判断できません。

2案目をもとに修正してください。「毎朝製造」が少し硬く感じるため、初めての人にも伝わるやさしい表現に変えてください。営業日と120文字以内という条件は維持してください。

このように、何を変えるか・なぜ変えるか・何を残すかを伝えます。

3. 条件に合っているか確認する

最後に、最初に決めた合格基準で点検します。

最終案を次の項目で確認してください。
・120文字以内か
・営業日が正しく入っているか
・与えていない事実を追加していないか
・初めての人にも意味が通じるか
「適合/要修正」の表で示し、要修正なら理由も書いてください。

そのまま使える「AIへの仕事依頼票」

次のひな型をコピーし、必要な項目だけ埋めて使えます。

【目的】
何のために作るか:

【役割】※必要な場合
どの立場・観点で考えてほしいか:

【対象者】
誰が読む・使うか:

【材料・前提】
使用してよい事実:

【条件】
数、長さ、雰囲気、期限、優先順位:

【禁止事項】
作ってはいけない情報、避ける表現:

【完成形・合格基準】
出力形式と、満たしてほしい項目:

【確認質問】
不足情報があれば、作成前に重要なものから最大3問まで質問してください。

最初から完璧に埋めようとせず、AIの質問や最初の下書きを見ながら不足している条件を追加してください。

よくある失敗と直し方

よくある失敗直し方
「いい感じに」とだけ頼む対象者、目的、残す点、変える点を書く
一度に多くの仕事を頼む下書き、修正、確認に分ける
背景を伝えずに結論だけ求める判断に必要な材料を箇条書きで渡す
条件を増やし続ける最優先の条件を一つ示す
役割名だけで専門性を期待する元資料、合格基準、人による確認を加える

まとめ

AIを仕事で活用するために必要なのは、特別な言葉を暗記することではありません。

  1. 業務全体から、AIが補助しやすい部分を切り出す
  2. 目的、対象者、材料、条件、禁止事項、完成形を伝える
  3. 情報が足りなければ、先に質問してもらう
  4. 下書き、修正、確認の順で仕上げる
  5. 事実確認と最終判断は人が行う

AIへの依頼を整理することは、自社の仕事の目的や判断基準を整理することでもあります。依頼の質を高めるほど、AIの回答を評価しやすくなり、業務のどこに活用できるかも見えやすくなります。


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