「そろそろ値下げした方がいいだろうか」

「新しい商品を出すべきだろうか」

「広告を出してみようか」

経営の話し合いは、たいていこうした打ち手から始まります。そして多くの場合、意見が割れたまま終わります。「やってみないと分からない」で解散して、また半年後に同じ話をする。

原因は、意見の対立ではありません。判断するための材料が、まだ机の上に出ていないのです。

なぜフレームワークは、知っていても使えないのか

SWOT分析、3C分析、ファイブフォース。セミナーや本で名前を聞いたことがある方は多いと思います。けれど、実際に自社で使い続けている方は、そう多くありません。

理由は、ひとつひとつをバラバラの単語として覚えてしまうからです。

これらは本来、見ている場所が違う道具です。健康診断に似ています。血圧だけを測っても、健康かどうかは分かりません。身長と体重、血液検査、問診と、順番に見ていくから判断できます。経営のフレームワークも同じで、順番に使ってはじめて意味が出てきます。

考える順番は、大きく5つ

打ち手を決める前に通る道は、5つの段階に整理できます。

打ち手を決める前に通る5つの順番。1外を見る、2競争を見る、3自社を見る、4力を入れる先を選ぶ、5次の売上を作る。ここではじめて打ち手を決めます。
打ち手を決める前に通る5つの順番。1外を見る、2競争を見る、3自社を見る、4力を入れる先を選ぶ、5次の売上を作る。ここではじめて打ち手を決めます。

1.外を見る(自分では変えられないこと)

景気、法律や制度、人口の変化、新しい技術。どれも自社の努力では動かせません。

まず確かめるのは、いま自分が追い風の中にいるのか、向かい風の中にいるのかです。向かい風の中で頑張っても、成果は出にくくなります。それは能力の問題ではありません。

2.競争を見る(同じ土俵にいる人たち)

売上はあるのに利益が残らない。この状態には、たいてい理由があります。

利益は、5つの方向から削られます。同業の競合、新しく参入してくる会社、代わりになる商品やサービス、お客様からの値引き要求、仕入先からの値上げです。自社がどの方向に削られているのかが分かると、打つべき手が変わります。

3.自社を見る(強みと弱み)

ここで大事なことがひとつあります。

強みは、自分がそう思っているだけでは強みになりません。 お客様から見て価値があり、他社が簡単に真似できないもの。この2つが揃ってはじめて、強みとして使えます。

「丁寧な対応」「長年の経験」は、多くの同業者も同じことを言っています。それだけでは、お客様が選ぶ理由になりません。

ビジネスをしていて、自分でも思って見なかったけど、ココがお客様に喜ばれた。など具体的なフィードバックがあれば、それは「強み」です。自分でも思って見なかったところに「強み」があることは多々あることです。

4.力を入れる先を選ぶ

中小企業は、人もお金も時間も限られています。全部に力を入れようとすると、全部が中途半端になります。どの商品に、どのお客様に集中するか。やらないことを決めるのも、経営の判断です。

今少し利益が出ているからやめるのはもったいないとどうしても思ってしまいますが、その少しの利益に対して実際どのくらい労力やコストがかかっているか。もし、その労力を今伸びている部門に集中したら?と検討してみることも大切です。

5.次の売上をどこから作るか

方向は4つあります。今のお客様にもっと買っていただく。今のお客様に新しい商品を出す。今の商品を新しい客層や地域へ持っていく。まったく別の分野に出る。

下にいくほどリスクが上がります。どれを選ぶかで、必要な準備も金額も変わります。

順番を飛ばすと、何が起きるか

たとえば「売れないから値下げする」という判断。これは、1の外の環境と2の競争を見ないまま、4の打ち手に飛んでいます。

もし業界全体が値下げ競争に入っているなら、値下げしても売上は戻らず、利益だけが減ります。そして一度下げた価格は、戻しにくくなります。

実際には、選ばれていない理由が価格ではないことも多くあります。知られていない、伝わっていない、比べられていない。 順番に見ていけば、そこに気づけます。

以前、オンラインストアの運営をご相談いただいたときのことです。「売れないのは価格が高いからではないか」という話が出ました。

そこで、値下げの前に、まず知ってもらう手を試してから考え直すことにしました。広告の出し方、ランディングページ、伝えるべき魅力の見直し、言葉の言い換え。こうした手を打ったところ、売上が大きく伸びました。

セールのような一時的な値下げでも売上は伸びます。ただ、価格ではなく価値を伝える形に変えたことで、長期的に伸ばすことができました。さらに、伝える価値を見直す作業は、商品やサービス自体を見直す作業にもなり、商品の改善にもつながりました。

順番を守る目的は、慎重になることではありません。やり直しを減らすことです。

フレームワークは「答え」ではなく「話し合いの型」

図に当てはめれば答えが出てくる、というものではありません。

いちばんの効果は、社内で同じ言葉を使って話せるようになることです。社長の頭の中にしかなかったものが、紙の上に出てきます。

従業員やご家族と一緒に埋めてみると、同じ会社を見ているのに、見えているものが違うと分かります。その差が、次の一手のヒントになります。

このシリーズで扱うこと

第2回から、順番に沿って1つずつ扱っていきます。

テーマ5つの順番との対応
第1回考える順番をつくる(今回)全体の地図
第2回自社の商売を5つの箱に書き出す現在地を確かめる
第3回自分では変えられない変化を先に見る1.外を見る
第4回なぜ売れているのに利益が残らないのか2.競争を見る
第5回安さで戦うか、違いで戦うか、絞って戦うか2.競争への対処
第6回強みと弱み、追い風と向かい風を並べる3.自社を見る
第7回その強みは、本当に強みか3.自社を見る
第8回どの商品・どのお客様に力を入れるか4.力を入れる先を選ぶ
第9回次の売上をどこから作るか5.次の売上を作る

1回ずつ読み切りでも使える形で書いていきます。気になる回だけを読んでいただいても構いません。

まとめ

打ち手を決める前に、外を見る → 競争を見る → 自社を見る → 力を入れる先を選ぶ → 次の売上を作る。この順番を通すだけで、話し合いの質が変わります。

フレームワークは、経営者を試すための試験問題ではありません。頭の中にあるものを外に出して、人と共有するための道具です。

次回は、自社の商売を1枚の紙に書き出す方法を扱います。5つの箱を埋めるだけで、自社のどこが弱いのかが見えてきます。

YMWorksでは、経営の現状整理から、その先の打ち手づくりまでご相談いただけます。

YMWorksの経営コンサルティングについて