戦略を立て、実行する経営戦略の一連のプロセスはおおまかに5つのステップにわけられます。

  1. ビジョン・ミッション・コアバリューを発展させる
  2. 目標設定をする
  3. 目標と企業のビジョンを達成するために戦略を立てる
  4. 戦略を実行する
  5. 戦略の効果(パフォーマンス)を見て、必要な調整を加える

ビジョン・ミッション・コアバリューを発展させることは、自分たちがこれからどこへ向かうかをみなで共有し、なにをして、また何をしないかを把握し、どういった企業であるかという明確にし、企業戦略を立てる基準を確立することにつながります。

ビジョン

ビジョンとは、将来どのようになりたい、”どこへ”行きたいのかを描いたものです。経営においてビジョンは心に思っているだけでなく言葉にすることで初めて意味をなします。なぜなら、企業は一人で動いているものでなく、従業員や取引先といった企業に関わる多数の人たち(ステークホルダー)により支えられてなっているからです。その人達にも伝わるように言葉にすることが重要になってきます。とはいっても、なかなかそれは難しいことなので下記のような基準を踏まえて言葉にすると良いとされています。

ビジョンを言語化する基準
とりいれるべき基準さけるべき基準
描写的に企業がどこに向かうのかを明確に。曖昧で不完全なものにしない曖昧で不完全で、企業がいったいどこに向かい、どう未来に向けて準備できるようにするかを疎かにしない。
前向きに企業が未来に向けて準備できるような方向性をもった言葉で。現状や過去のことを述べるものではないビジョンは企業の今なにをしているかや過去に何をしてきたを述べるものでない。これからどこへ向かい何をするかを言葉にする。
集中するマネージャーが飛鳥なリソースを配分したり意思決定をするためのガイドになるように。意味の広すぎる言葉をさけるあまりに意味が広すぎる言葉を使うと企業がなんにでも手をだしかねない。それはリソースの散漫につながるので避ける。
余地を持たす顧客・市場・テクノロジーの変化に対して調整できるようにある程度柔軟性を持った言葉で。活気のない言葉を避ける良いビジョンは従業員のモチベーションを上げたり、ステークホルダーが企業の未来に対して自信を持てるような言葉である必要がある。
実現性を持たす実現性・現実味のある方向性をもたせること。また実現したときに、それが実現できたどうか判断できる基準を持たす。凡庸なものにしないどの企業や業界でも当てはまるような凡庸なビジョンは良いガイドにはならない。
理由付をするとくに従業員・取引先といったステークホルダーに対して、その方向性が長期的に見てなぜ良いのかを示す。大げさな表現に頼らない最高のとか一番とか言った言葉に頼ると結局はどのように企業が進んでいくかを示すのに役に立たない。
覚えやすくわかりやすく伝えやすい数行の言葉にする。また覚えやすいスローガンなど。だらだらと述べない長くダラダラと述べたものはこころにとどまりにくく、忘れさられる。

ビジョンは伝えやすく、わかりやすい必要があります。伝えやすく、わかりやすいビジョンは個々の従業員が企業がどこに向かっていくのかをよく知ることができます。それはモチベーションを上げたり、企業にとってなにが大切かを知り、望ましい判断を行うのに役に立ちます。 また、方向性の決まらない意思決定を避けることにつながります。

ミッションステートメント

ビジョンとミッションは以下のような基準でわけられます。ビジョンはこれから”どこへ”向かうを描いたものです。対して、ミッションは目的や今の企業のこと”私たちは誰か”、 ”何をするか”、”なぜ今ここにいるか”を表したものです。 ミッションステートメントは企業のアイデンティティを確立させるものであり、どのようなことに企業が集中していくかを示すものです。 ”利益を上げる”というのは達成目標ではあったとしてもミッションではありません。理想的なミッションステートメントは下記のような特徴があります。

  • 企業の製品やサービスを特定する。
  • 顧客が欲するもの満足するものを明確にする。
  • どのような市場や顧客をターゲットにしているかを示す。
  • どのようなアプローチで顧客を満足させていくかを明確にする。
  • ライバルの企業とはどう違うかを示す。
  • ステークホルダーを明確にする。

コアバリュー

コアバリュー(核となる価値)とは、企業のビジョンやミッションを実現するにあたり企業が持つ共通の価値観・信念・行動理念を指します。 このコアバリューがビジョン・ミッションとうまくかみ合った戦略が企業の成功へとつながります。

目標を決める

良い目標とは?

目標設定やそれを達成するための経営戦略のたて方の詳細は後述することになりますが、よい目標設定は、企業ミッション・ビジョンをうまく目標に変換できているかがキーとなってきます。また、よい目標は以下の要素がうまくかみ合っているかどうかによります。 良い目標とは (SMART objective)

  • 明確で、特有であるか(Specific)
  • 数で表せられるか、達成度を計ることができる(Measurable)
  • 実際に達成できるものかつチャレンジであるか(Attainable)(簡単すぎるとモチベーションがあがらない)
  • 企業のミッション・ビジョンに関連しているか(Relevant)
  • 時期設定があり時期相応であるか(Timely)

期間ごとの目標

目標は短い期間と長い期間でそれぞれ設定されます。

短い期間の目標 Short-term Objectives

短い期間の目標は3ヶ月や一年といった短い期間での業績や、その時の株主を満足させるかに焦点を当てます。

長い期間の目標  Long-Term Objectives

長い期間での目標は長い目でみた適切な業績を維持するために今なにをするかに焦点を当てます。また、長い目での目標を設定することは、短い期間での業績(目先の利益)に過度に集中しすぎることを防ぎます。

ふたつのタイプの目標

経営戦略上の目標には財務目標と戦略目標のふたつのタイプがあります。

財務的な目標  Financial Objectives

財務目標はお金にかかわる業績に関わるもの、そして企業内部の活動に焦点をあてたものです。 例えば、

  • 年度の売上を X%増加させる。
  • 粗利益率を X%に増加させる などです。

戦略的な目標  Strategic Objectives

戦略目標は市場での立場や、ライバルに対して優位かどうかに関わるもの、企業とその外部に焦点をあてたものです。 例えば、

  • X%のマーケットシェアを獲得する。
  • ライバル企業よりもブランドの認知度・高感度を上げる。
  • ライバル企業よりも幅広く・高性能の製品を提供する。 などです。

戦略を立てる

目標の設定と同じく戦略のたて方の詳細は後述することになりますが、戦略はつねに”どのように”に焦点を当てます。 戦略は、ライバル企業と同じ”群れ”となって行動するのでなく別の違うことするのを促します。戦略はトップの経営者だけが理解し実行するものでなく、すべてのマネージャーが協力し、それぞれの役割を果たしながら実行していくものです。そのため、戦略を立てるのにも大なり小なりそれぞれのレベルでのマネージャーや企業のキーパーソンの協力が不可欠になってきます。 また、大きい企業では経営戦略を実行するためにはそれぞれのレベルできることが変わってくるため、4つのレベルに細分化します。 それぞれ隣り合うレベルの戦略は互いに影響しあいます。

企業戦略(Corporate Strategy)

それぞれの部署での役割を統合し相乗効果が出るか

ビジネス戦略(Business Strategy)

どのように市場での強いポジションを獲得するか、ライバル企業対して優位なところを持てるか 下位に属する部署が一つの方向に向かっているか *後述ではこの企業戦略ないしビジネス戦略のたて方を見ていくことになります。

実務エリア ・部署単位での戦略(Functional Level Strategies)

ビジネス戦略を達成するためにどのような活動が必要になるかを加えていく 特定の活動をマネージメントするために必要な”ゲームプラン(作戦)”を加える

業務戦略(Operating Strategies)

実務エリア単位での戦略を実行するために必要なプランを加える簡単な例として、縮小している国内市場の依存を脱却するために海外展開を踏まえる戦略を立てたとします。海外展開は企業全体レベルでの大きい決断となるため企業戦略として分類できるでしょう。 では、海外展開するためになにが必要か? 海外での市場を調査し、海外でのライバル企業に対してどういった風に優位性を持てるかはビジネス戦略に分類できます。 そして、海外展開において優位性を得るためにそれぞれの部署が必要なことを決めるのは実務エリア戦略となってきます。例えば人事部でなら海外事情や外国語に精通している人員を増やすなど。 最後に、その人員を増やしたあと、その人員に日々どのような仕事をしてもらうかを決定していくものは業務戦略となってきます。 トップレベル・企業全体レベルでの戦略をそれぞれの下位のレベルに順に落とし込みます。その下位のレベルは一つ上のレベルの戦略を支えるような戦略を立てていきます。下位のレベルに進むに従いそれぞれの業種での専門的や現場での知識がより必要となってきます。

戦略を実行する

戦略プランを実行していくには下記のような行動が必要とされます。

  • 組織単位での行動に方向性を持たせる
  • 戦略を実行するために必要な組織の構造を築く
  • 人々のモチベーションを上げる
  • 企業がもつ能力・技術力を強化する
  • 戦略を成功させるために十分なリソースを配分する
  • 戦略を支える仕事ができるような環境を整え、企業文化を築く

戦略を実行していくためには、組織全体がその戦略に向けて一つの方向に体を向けている必要があります。また戦略によっては新しい部署や部門が必要なり新しく部署を作ったり構造改革が必要になってくる場合があります。 戦略プランを成功させるためにそれぞれの人が動きやすいような環境を整える必要があります。戦略プランの成功につながるような働きを積極的に称賛し、モチベーションを上げるのも必要です。その新しい戦略プランを成功するために、企業の能力を強化したり、あたらしい技術を導入しなければならない場合もあります。

戦略の成果と調整

戦略を実行した後、その戦略が果たして目標を達成するのに役に立っているかどうか3つの観点から評価します。

  • その戦略は目標達成にマッチしているか?
  • 競合優位性(competitive advantage)を得ているか?
  • 良い成果がでているか?

評価の後、調整を行います。企業ビジョン・ミッション、目標、戦略、戦略実行の手順をそのまま続けるか、それとも変更が必要かどうかを判断する必要があります。 後述でも話しますが、戦略を立てる時は外的な要因(市場の動向・顧客の好みの変化・経済状況)をよく考えます。外的な要因は時間とともに刻々と変化するため調整が必要となってくる場合があります。